※このブログは私が身内向けに他のブログに投稿したものをこちらのブログに転載したので、口調がいつもと違いかなり馴れ馴れしいですが、気にしないでください笑


GoToトラベルキャンペーンに関して、「代理店経由の、所謂パックツアーが優遇されているから、GoToは旅行代理店との癒着だ」みたいな話が結構あるけど、その主張の根拠は明らかに間違いだと思う。僕はこのキャンペーン自体は賛成派だけど、癒着があるかどうかは知らないし、実行の不備は沢山あるからもう少しちゃんとやれよとは思う。ただ、代理店との癒着の根拠としてこの仕組み自体をあげるのは誤りで、ちゃんと経済学的な理由があるので、観光に関わる経済の観点からちゃんと説明しようと思う。少し長くなるけど、全部読めばそこそこ賢くなるし、今後色々お得に旅行できるようにもなると思うのでぜひちゃんと読んでほしい。


【前提の話】
話の前提を知らない人のために簡単にまとめると、今回のGoToトラベルキャンペーンは、JTBのような旅行代理店が売ってるパックツアー(飛行機と宿、場合によってはそれにレジャーなどがまとめられたプラン)は全額に対して割引が効くのに対し、個人手配で交通や宿などをバラバラに取ると、交通は対象にならず宿にしか割引が適用されない。これを見て「このキャンペーンは旅行代理店と癒着しているものだから強行された」みたいな主張を展開している人がそこそこいるのだ。


【仕組みの説明】
その主張が誤りだという根拠は、ミクロ経済学を学ぶと最初の方に出てくる、価格差別という概念である。長距離交通の世界は独占市場か寡占市場なので、常に価格差別(Price Discrimination)を行うことで成り立っているのだ。正確に言えば第3種価格差別、つまりグループ別価格差別にあたる。
ここで、この市場は大抵の場合独占や寡占なので、消費者ははその財やサービスが高ければ、他の店に行くという選択はできないのでその財やサービスを消費しなくなると言うことを理解しておいてほしい。
ここからは、この価格差別の概念を2つの例を用いて理解してもらおうと思う。ミクロ経済学既習者は2つ目の説明だけ読んでくれれば言いたいことがわかると思う。

まずは、映画館の料金を思い出してほしい。大体、大人は1900円とかなのに対し、小学〜高校生は1000円だよね。でも、学生だからって2人で1つの席を使うことはない。じゃあなぜこのような料金が設定されるのだろうか。「小中高生への教育的観点から」と言う人もいるかもしれないけど、映画館は教育機関としてやっているんじゃなく、れっきとしたお商売なのでその推測は残念ながら当たっていない(まれに部分的にそう言う意図があるかもしれないが、本筋ではない)。
じゃあなぜかと言うと、学生はあまり金に余裕がなくて、安くしないと映画館に来てくれないからだ。経済学っぽく言うと、学生らは需要の価格弾力性が相対的に大きい集団だと言えるということになる。この「学生」という集団は、普通の値段で売ると誰も映画館に来てくれなくて利益が出ないけど、安く売れば結構な人数が来て、薄利ではあるけど利益が出るのだ。それを狙って、学生だけ安くしてるというわけ。

別の例をみよう。飛行機、特に国内線って、かなり前もって予約するとめちゃ安いけど、前日とか当日に買うと目ん玉飛び出るほど高いよね。例えばJALの沖縄行きなんかは、3ヶ月ぐらい前に買えば片道9000円くらいで買える便があるけど、当日空港で買うとと5万円取られる。なんでこんなことになっているのだろうか?「早く買ってもらえば金回りが良くなるし需要見通しも立って会社が安心だから安くなる」と言う人がいるかもしれない。でも、早く予約することは運賃を8割引するほどありがたいのだろうか…。ヒントを出すなら、飛行機というのは不思議な乗り物で、スーツを着て出張中のおじさまの隣にはカップルで旅行する大学生が座っていたりするということである。この人たちはみんな同じ運賃を払えるのだろうか。じゃあ、答えを言おうか。
この話の答えは、ビジネス需要とレジャー需要を差別するためだ。レジャー需要は映画館の例で言えば学生にあたる「高いと使ってくれない人たち」だ。逆にビジネス需要(出張など)の人は、いくら高くても必要なら使ってくれるし、いくら安くても必要ないなら使ってくれない。出張者は需要の価格弾力性が極端に小さい集団と言えるわけ。大体、僕らが旅行の時に払うような安い運賃だけじゃ航空会社は成り立たない。
じゃあ、ビジネスとレジャーをどう区別しようかと考えたとき、みんなはどうするだろうか?スーツを着てきたら運賃5倍?子連れなら運賃割引?いずれも穴がありすぎて非現実的だよな。僕は一人旅もするし、もしスーツを着ると高くなるなら出張は全てTシャツ短パンで行くよう、会社から確実にお達しが来ると思う。そこで航空会社は「予約時期」に着目した。国内出張の予定は基本的に直前に決まるだろうから3ヶ月前とかに予約するのは到底不可能だ。逆に日本の旅行者は休暇を申請して前もって様々な手配をするので、旅行の相当前に予約をすることになる。なので、早く予約した人に安く、直前に買った人に高く航空券を売れば、旅行者には安く、ビジネスマンには高く航空券を売ったことになるのだ。価格差別の完成である。

【GoToトラベルへの応用】
長く小難しい説明を聞かされ、「この話と代理店パックツアーの優遇になんの関連があるんだ!」とお怒りかもしれない。もう少しで結論にたどり着くので辛抱してほしい。飲み込みの早い人はもう理解してるかもしれないけど。

GoToトラベルの本来の目的は「値引きによる旅行、観光消費の促進」のはずである。当然だが、値引きしてもしなくても同じように消費する人たち、つまり消費促進の効果が出ない奴らに補助金をくれてやる必要はないのだ。それは誰かと言うと、先程のビジネス需要の方々である。大きな金額を動かす彼らは別に値引きされてもされなくても出張するかどうかは変わらない。しかも大抵の場合空港から取引先を日帰りで往復するだけで、観光関連産業に対して交通ぐらいしか貢献もしない。
となると、GoToトラベルでも価格差別を実行したいということになる。具体的にいうと、割引対象から、割引きの効果が出ないビジネス需要は外したいというわけ。ビジネス需要とレジャー需要の区別に早期予約運賃を用いる例はさっき説明したけど、残念ながら今の社会ではこれはあまり機能しない。なぜなら、皆コロナで先が見通せないため、割と直近の旅行を計画するからだ。言い換えれば、ビジネス需要の人だけでなくレジャー需要の人も直前に予約するようになってしまい、予約タイミングでは区別ができなくなったということだ。
ここで最後の砦になるのがパックツアーだ。パックツアーというのは、フライトや新幹線などの便や時間が指定され、基本的にはホテル付き1泊以上のプランであり、下手したら現地アクティビティまでついてくる。なので、日帰りだったり、現地の仕事がどれくらい長引いて何時に帰れるかなど時間が不透明だったりすることが多い出張には、ほぼ使えない。だからパックツアーのみをキャンペーン対象にしてさらに値引けば、ビジネス需要の人にキャンペーンを利用される心配が極めて低く、レジャーとビジネスの価格差別の構造を維持できる、というわけ。よくできてるでしょう?

これで説明はおわり。まとめ直すと、価格差別の構造を維持して事業者が効率的に利益を出し、補助金が効率的に利用されるようにするには、バラで買った交通費に補助金を出してはまずい、ということね。癒着があるかどうかは知らないけど、パックツアーを優遇するこの構造自体は、癒着の根拠には全くならないというとは分かってもらえたはず。誤った認識をもとに主張をしても、議論の土俵にすら立てない。

【おわりに】
今回のGoToの件に限らず、旅行を計画し手配するとき、価格差別の概念を知らないのは極めて恐ろしいことだと思う。ビジネス需要を想定した高いチケットを、なんの疑いもなく買ってしまうからね。

あ、ちなみに、大学生を含む学生を対象にした、予約せず当日空港で航空券を買っても格安になる制度が各社にある。学生は直前購入だとしてもビジネス需要で搭乗することはあり得ないから、このような救済的な価格差別が設定されている、というわけ。

いずれにせよ、ここまで長い説明を最後まで読んでくれてありがとう。もし何か新しい発見があったなら嬉しい限り。ではまた。